剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 セドリックの死から二ヶ月が経ち、生活も気持ちも徐々に落ち着く頃、セシリアは森に行く途中で偶然ルディガーを見かけた。どうやら非番らしい。

 長い間話していない気まずさもあるが、ここは思い切って声をかけようと試みる。ところが少し距離を縮めて、彼のそばにエルザがいたのに気づき、すんでのところで思い留まった。

 わずかに見えた横顔からルディガーがいつも通り微笑んでいるのがわかり、セシリアは慌てて踵を返す。彼らに背を向けて目的地を目指した。

 そうだよね。私が心配しなくても、彼には婚約者がいる。彼女の存在が慰めになっているなら……。

 薄情だとは微塵も思わない。元気でよかった。むしろ自分と会えば、兄とのことをあれこれ思い出させて余計につらい思いをさせるかもしれない。

 セシリアは勢いよく駆けて森の奥へと進み、よく父に内緒でセドリックに剣やナイフ投げを習っていた場所にやってきた。

 森の中でわずかに木の空いたスペースがあり、格好の秘密の練習場だった。訪れたのは久しぶりで、いつも的にしている木にはナイフ跡がいくつも残っている。

『いいかい、セシリア。止まっている的に当てるのと動く標的を狙うのとは、わけが違うんだよ』

 不意に兄の声がリアルに蘇る。セシリアは袖口に潜ませていたナイフを素早く指の間に滑り込ませ、挟んで構える。そして勢いよく右手から放たれたナイフは風を切り、わずかな時間差を開けて木の幹に縦に一直線に並ぶ。
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