剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
『先を見越して、相手の動きを予想して投げるんだ』

 続いて視線を移し、生い茂る枝の先からわずかに葉が落ちてくるのを今度は一枚ずつ狙って左手からナイフを飛ばす。

 何枚もの若い青葉は木の幹に磔にされ、まるで磔刑だ。

 腕は鈍っていない。なのに気持ちは沈んでいく一方だ。セシリアは近くの幹に背を預け、そのままずるずると根元に腰を落とした。

 袖口に余裕のある青のワンピースが汚れるのも気にしない。項垂れば長い金の髪も地面につくが、もうどうでもよかった。

 私も、前に進まないと。

 ぎゅっと体を縮め、必死で自分に言い聞かせる。いつも通りに振る舞っているつもりだが、セシリアの心の奥底はずっと澱んで濁っている。

 重たくて暗い感情を上手く自分で吐き出せず、処理もできない。

 なんで私だけ、できないの?

 父も祖母も、スヴェンもクラウスも、ルディガーさえ思うところはそれぞれにあるだろうが自分の債務をこなし、日常に戻っている。いつまでも中途半端な自分が情けなくてしょうがない。

 セシリアは体勢を変えず、その場でしばらくじっとしていた。今日は日差しが心地よく暖かい。どこからか虫の鳴く声が聞こえ、さんさんと降り注ぐ太陽光は深緑を通してほどよい明るさと穏やかな空間を作り上げている。

 ずっと浅い眠りを繰り返している不眠気味の体は、ゆるゆると睡魔に攫われていく。投げやりな気持ちもあり、セシリアは素直に受け入れた。

 兄さん、私どうすればいいの?

 静かな問いかけに返事はなく、セシリアの意識はすっと遠のいていった。
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