夜のしめやかな願い
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さゆりはスマホで送ってもらった住所を確認して、薄汚い雑居ビルを見上げた。
1階入り口のガラス戸を押し開けると、かび臭い空気に襲われる。
壁に並んでいるポストの表札を見て、間違いがないことを確かめると、さゆりは階段を上がり始めた。
途中で隅の方で走っていった黒い物は気づかなかったことにする。
3階まで上がって、年代を感じさせるドアの前で呼吸を整えた。
はまっている擦りガラスから明かりがもれているから、宗臣はいるのだろう。
大きく息を吸って吐いてから、ノックをした。
「こんばんは」
事務室の中は簡素な応接セット、その向こうにデスクが一つ、壁際にキャビネがあるだけだった。