夜のしめやかな願い
いくら酷いことを言いながらも、こうしてちゃんとエスコートするのに笑えてしまう。
「ありがとう」
すれ違いざま、うつむいたまま呟くように言ってから、顔を上げて笑った。
「オミにとっては利用価値ってことだったかもしれない。
でも、ありがとう」
さゆりはそのまま振り返らずに歩き出す。
どんどんと歩きながら思う。
安心したのか、悲しいのか・・・うれしいのか。
悲しい。
私は悲しい。
オミに縁を切られて。
生まれた時から、ずっと身近にいたからか、体が引きさかれた痛み。
やがて傷がふさがって、なんでもなくなるのか。
さゆりには全くわからなかった。