敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……昨日は……悪かった」
「え?」
「……勝手に怒って、勝手に八つ当たりした……と、思う」
手を掴まれたまま、そう呟くように謝る室長に、一瞬何のことを言われているのか考えてしまったけど。
室長が言ってるのは阪井くんのことと『君の愛想笑いは好きじゃない』に対するものだと思われ。
ここへ来るまでは私も気にしていたけれど、具合の悪い室長を前にして今ではすっかり忘れていたという単純な私。
だけど昨日のことを謝るのなら私の方という気がしてならない。
「……謝るのは私の方です。室長は怒ってくれたのに私は……その場しのぎみたいな感じで笑ってやり過ごそうとしたから……」
「いや……君の事情を考えればああやって笑って流して、冗談として受け止めていると思わせるのは間違ってない。俺が大人げなかったんだ」
「そんなこと……」
「いや、そうなんだ。だけど俺はどうしても我慢出来なかったし、君があいつを庇ったようにも思えて嫌だった」
「……あの、それって……」
室長の話を聞いていると、私が思い上がってしまいそうなことばかりに聞こえる。
だって、私が阪井くんを庇ったと思って、それが嫌だったっていうのはーー。
「……嫉妬、っていうやつなんだと思う。たぶん」
「……本当に? 室長が……?」
「ああ。自分の心の狭さに初めて気付かされたよ。あまり気分のいいものじゃないな」
ふっ、と力なく自分を嘲るみたいに乾いた笑みを浮かべる室長。
だけど私は室長が『嫉妬』なんて言葉を綴ってくれるとは思ってもいなかったから戸惑いが隠せなくて。
「きっと、俺は自分が思ってる以上に君に惹かれてるんだろうな」
「え……」
真っ直ぐな目を向けてくる室長の目は優しさを孕んでいて、見つめられているだけなのに身体の奥に微かな疼きを感じてしまう。
それに都合がいいからという理由の他には何もなかったはずの関係に、甘い感情が芽生えているのかもしれないと思うと欠けていた心が潤っていくようだった。