敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……神田さん?すみません、気に障りましたか?」
「……いえ、違うんです……。室長にそんな風に言ってもらえると思ってなくて……。嬉しくて泣きそうなんです」
そう言って彼女は潤んだ目をしたまま、にこっと微笑んでみせる。
それを見て俺の中の何かが、僅かに揺れ動いた気がしたが気のせいだろうか。
嬉し涙とは聞いたことはあるが実際に目の当たりにすると、美しいものに触れて自分の醜さが際立つように思えた。
それから彼女は笑いながら冗談めかして、室長に泣かされたと皆に話すというので、俺もそれに応えるようにお詫びに残りの仕事を引き受けるから早く上がって同期会へ行くよう伝えた。
彼女は恐縮しながらも、目が眩むほどに愛らしい笑みを浮かべ、礼を言って帰っていった。
「……ふっ……、可愛い生き物だな……」
これまで女性の表情に、というか他人のことにあまり興味がなかったが、何故か彼女のことは例の一件から無意識のうちに目が行くようになっていた。
あえて気にしないようにしなければついつい眺めて、そのギャップが『面白くて』笑ってしまいそうになるから、と思っていたが。
俺は彼女が面白いから笑うのではなく、可愛らしいものを見て微笑ましく思って笑いそうになるのだと、今気付いた。
「ダメだろ……これは……」
たぶんこれは、特別な感情の芽生えだとさすがに気付いた俺は彼女に近付かない方がいいと改めて気を引き締めてはみたものの。