敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
仕事を終え、いつものバーでぼんやりと彼女のことを考えながら飲んでいると、入り口から現れた女性を見て愕然とした。
距離を置こうとしているのに、こんな偶然があっていいのだろうか。
「櫂、ちょっといいか」
心もとなさそうに入り口に立っていたのは、今まさに俺の頭の中にいた神田七海本人だった。
この店は一見の客はお断りだ。
彼女を追い出さないよう櫂に伝え、俺は彼女の存在には気付いていないふりをした。
彼女はどう見ても待ち合わせなどではなく時間的に同期会の二次会の店を間違えた迷子で、放っておけばここから出ていくはずだったのに。
俺は、そうさせなかった。
なぜ? それは自分でもよく分からない。
ただ、室長じゃない、ただの男である俺自身を知ってほしかったのかもしれない。
そして俺に近付いて来てほしい、心のどこかでそんな願望を抱いていたのかもしれない。
結局、俺が女に簡単に誘われる男であることを印象に残すために、仕方なく見知らぬ女の誘いに乗ったふりをした。
店から一緒に出てきた女には申し訳ないが、急用が出来たと言って俺は一人家に帰り、明日の彼女の反応を予想しながら夜を過ごした。