敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
次の日の、彼女の俺を見る目は俺を十二分に満足させるものだった。
あの室長が? とでも思っていることがありありと分かるような好奇と戸惑いのまなざし。
彼女の思考を俺が占領しているかと思うと妙な支配欲が満たされ、しばらくの間は気分よく過ごせる、そう思っていた。
けれど、事態は俺の思うようには進まなかった。
「だから暁斗、おまえは……」
「シッ、待て、誰かいる」
「は? もう皆帰ってーー」
皆が帰ったのを確認してからここで暁斗と話している。
だから誰かいるなんて暁斗の気のせいだと思ったのに。
暁斗が扉を開けた先にいたのは神田七海だった。
困惑しているその様子から、俺達の話を聞いていて、俺と暁斗が兄弟であることも知ってしまったのだろう。
彼女の扱いについては任せると暁斗に言われ、どうしたものかと考えあぐねていたけれど。
真っ青な顔で、秘書の仕事を続けたいと訴えてくる彼女を見て胸が痛くて堪らなくなった。
何故なら立ち聞きをさせてしまうほど、彼女の好奇心を煽ったのは俺だから。
昨日、彼女の目の前で見知らぬ女に誘われるままにキスを交わし、普段の俺とはまるで違う姿を見せつけ俺に興味を持つよう誘導した。
彼女をどうにかしようと思っていた訳じゃない。
ただ、俺が、俺のことで困惑する彼女を見たかっただけ。
俺のことをあれこれ考えて、また違う顔が見られたらそれでよかった。
だから、目の前で自分がこれからどうなるのかと怯えている彼女があまりに不憫で、責任を取って大丈夫だと安心させる言葉を掛けなければ、そう思っていたが。
「じゃ、契約成立、ってところかな。これからよろしく。俺のフィアンセとしてーー」
魔が差した、としか言いようがなかった。
俺と婚約なんていう『保険』がなくても彼女が秘書を続けられる道はあるのに。
彼女の愛らしい唇に触れた瞬間、何かが欠けていると感じていた自分の心の内がほんの少しだけ満ちていくような、そんな気がした。