敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
でしゃばってしまったかと気になって、後ろにいる室長を確認したけれど、私と目が合うと口元を緩めて頷いてくれたので大丈夫なのだと安心した。
外へ出ると既に迎えのお車が来ていて、会長は時々咳き込みもしたけれど、常務に支えられながら無事に乗り込まれた。
「藤堂さん、神田さん、本日はこのような形でお開きになってしまい申し訳ありません」
見送る私たちのもとへ常務がやって来て、申し訳なさそうにそう話すと深々と頭を下げる。
「慎太郎くん、そんなに頭を下げなくてもいいよ。また今度ゆっくり会おう。会長にもくれぐれも無理はしないよう伝えてくれないか」
「はい、必ず伝えておきます……と言っても頑固ですし、僕の言うことなんて聞いちゃくれないんですけどね」
そう言って肩をすくめて笑う常務からは、どこか緊張から解放されたような、安堵した様子がうかがえる。
会長の体調があまり良くないので、気を張りつめていたのかもしれない。
「それと神田さん、先程はおじい様を支えてくださりありがとうございました。やはりああいう場では女性の方が頼りになりますね」
「えっ、いえ、そんな私は何も……」
「いえいえ、きっと僕が背中を擦るより効果があったと思いますよ。それに一緒に歩く時も、きっと僕の手は借りたくないと言って撥ね付けたと思います」
常務はそう言ってニコッと笑うけど、それがまた眩しいぐらいに爽やかな笑顔で変にドキドキする。
「それと、スカートは大丈夫じゃないですよね? 申し訳ありません、おじい様がよろめいてしまったせいで……」
「えっ! いえ、あれは私の不注意ですから気になさらないで下さい」
本当に私の不注意なのに、会長と同様に常務までもが申し訳なさそうな顔をするのでかえって恐縮してしまう。
「あの、お二人は明日帰られるのですか?」
「はい。明日の……えっと……」
私の予約通りなら明日のお昼の新幹線なんだけど。
部屋のキャンセルの件もあり、どうなんだろうと隣にいる室長を見上げる。
「明日の午後帰ります。慎太郎くんも向こうに来ることがあったら顔を見せに来てほしい。暁斗も会いたがっていたから」
「ええ、是非。その時はご連絡しますね。では、これで失礼させていただきます」
軽く会釈をして常務が会長の隣に乗り込みドアが閉められると、後部座席の窓が下がり、少し落ち着かれた様子の会長が掠れた声で「本当にすまんな」と仰り手を上げられる。
室長と私は深々と頭を下げ、車のテールランプが見えなくなるまで見送った。