敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
促されるままに入った店内は落ち着いた色味で纏まっていて、全体的に老舗の雰囲気がひしひしと感じられた。
オーダーメイドスーツはブランド物を買うより質もよく、サイズもピッタリ合わせられるし、意外とお手頃な価格に収まると阿川さんに聞いたことがある。
それでもここはどうなんだろう。
こんなに普通に話しちゃってるけど、大央製鋼グループの常務なんて地位も名誉もあるすごい人だ。
そんな人がお詫びに、と言って選んだお店なのだからリーズナブルであるとは考えづらい。
「神田さん、こちらのマネージャーさんが担当してくださるそうなので、お好きなものを選んでくださいね」
「あっ、はい……」
店内をぐるりと見回していた私はいつの間にかスタッフさんたちに囲まれていた。
そしてその中で一番目立つ美人さんがマネージャーらしい。
どこでも美人は仕事もできるんだなあと阿川さんを思い出しながら、スタッフのみなさんに連れられてお店の奥へと向かう。
「大川さまからは何着でも、と伺っておりますが……」
ふふ、と意味ありげに微笑みながらマネージャーさんがそうおっしゃるけれど、明らかに私が常務と何やら関係があると勘違いしてるみたいだ。
「何着もなんてとんでもないです。1着だけお願いします」
私が姿勢を正してそう告げるとマネージャーさんは残念そうな顔をした。