敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

そもそも新しいスーツをお詫びとしてプレゼントしてもらうこと自体がおそれ多い。

何着でも、というのは常務の本心だしご厚意であるのは間違いないと思うけど。


「お好きな生地や色味などありましたらーー」


体の隅々まで採寸され、生地見本や型の見本、ボタンなどを次から次へと選択していく。

言われるがまま、あれやこれやとサンプルに袖を通して試着していたけれど、1つ着る度にマネージャーさんが「お似合いです!」などと褒めまくる。

そこで一点、重大なことを忘れていたと気付く羽目になる。


「大川さま! お連れ様は本当に何でもよくお似合いで、私共も1着だけには絞りきれませんわ」


マネージャーさんはそう言ってベタだけど両手を手揉みしながら、応接ソファで私のファッションショーを眺めていた常務へと切実に訴える。


そう、私はこのスタッフの皆さんが『関西人』であることを忘れていたのだ。

もうとにかく商売上手。これでいいと言っても他にもこんなのがあると言ってまた試着させる。

そうなると私も色々迷ってきてしまうわけで。
ただ、1着だけという点は譲る気はないけど。


「あの、私、本当に1着だけで十分です。色々試着させていただいたのに申し訳ないのですが……」


この勢いだと何着でも選ばされそうだし、常務はどうぞ何着でもと言うはずだし。


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