敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「暁斗から話があるから、まずはそれを聞いてほしい」
「社長から……ですか?」
「ああ。それによっては俺との話は不要になるかもしれないし」
室長は軽く振り返ってそう言ったけど、社長から一体何の話があるというのか。
それに、その話が室長と私がこれからする話と何の関係があるのかもよくわからない。
そんな私の戸惑いをよそに、室長は社長室のドアをノックもせずに開く。
そして私に中に入るように目で合図するので、私は小さく独り言のように「失礼します」と言って中に入った。
すると応接ソファには既に社長が座っていて、私に向かってにこっと笑うと、向かいの席に座るよう手で示した。
「ごめんね、急に呼んじゃって。ちょっと急ぎで神田さんに説明しなくちゃいけない話が出来ちゃってさ」
申し訳なさそうな表情を浮かべて社長がそう切り出す。
室長は私がソファに座った後、社長と私が向かい合って座るソファに直角に並べられた一人掛けのソファに静かに座っていた。
ちらっとその表情を伺うも、目線はやや下向きで目が合わないし、口元は真一文字で、いわゆる仕事モードのいつものポーカーフェイスにしか見えない。
「まずは先週、突然出張に行ってもらうことになって申し訳ない。事情は薫が説明してるかもだけど、完全にプライベートでの問題発生ってやつで……。でも、おかげでまるっと解決できたんで……本当に助かったよ。ありがとう」
「いえいえ、私は何の予定もありませんでしたし、お役に立てたのであればよかったです」
社長から真摯にお礼を言われてしまい、恐縮して手を横に振りながら返事を返すと社長はニコニコしながら軽く何度か頷く。