敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「ごめんね神田さん、俺いなくなるからあとは二人で話した方がいいよ。返事は急かされてるけど、そこは気にしなくてもいいから」
普段のカリスマオーラは鳴りを潜め、今の社長はなんていうかそこら辺にいるチャラいイケメンみたいな感じですっかりオフモードだ。
で、こんな感じではあるけれど私にものすごく気を使ってくれているのがわかる。
たぶん私と室長はどうしちゃったの? という疑問しかないんだろう。
ていうか私だってなんでこんなことになるのか見当もつかない。
普通はこんな話が来ても、もう俺と結婚するから、とか言って断るよね。
でもそうなってない。
そうなってないということは。
室長の気持ちが変わっちゃった、としか考えられなくて、胸の中がざわついて仕方ない。
「あともうひとつ。薫もいい奴だけど、慎ちゃんもいい子だから、神田さんはどっちを選んでも幸せになれるよ……って、これは余計なお世話かもだけどさ」
社長は力なく笑ってそう言うと、私と室長を二人きりにさせようとしてるのか、スーツの上着に袖を通し、帰り支度を着々と済ませていく。
「暁斗」
「なんだよ。俺はもう帰る。そもそも俺が何か言える立場じゃないんだって」
私と室長を残して、今にも帰る勢いの社長を止めるかのように室長が社長の名前を呼んだけど、社長は呆れた顔をして扉へと向かう。