敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「昨日の朝までは優しかったのに……。違う人みたい……」
重苦しい空気の中、つい本音が漏れてしまった。
一瞬、しまった、と思ったけど室長は何も感じてないのか眉ひとつ動かない。
けれど、はあ、とものすごく気だるそうに大きく息をつくと、呆れたように肩を竦める。
「なんか、早まった、って感じだな」
感情のこもらない、例えるなら仕事の話でもしているかのように淡々と室長がそう言った。
その顔を見ても一体どういう心情なのか、私にはわからない。
「……早まったって何がですか?」
本当は、室長が何のことを言ってるか、怖くて聞きたくはなかったけど。
もう曖昧なまま希望を持つのも辛いから。
「君と関係を持ったこと。そもそも大阪に連れていかなきゃよかったな」
そう言って室長はばつが悪そうに軽くため息をつくと、首もとへ手を伸ばしネクタイを緩める。
「君に俺と暁斗が兄弟だって聞かれて、まだ社内には知られたくなかったから黙っててもらうために成り行きで婚約とか言ってきたけど、それももう隠す必要もなくなるんだ」
「……そうなんですか?」
「ああ。知ってる人間は増えてきてるし、俺もいっそのことバラした方が動きやすい。暁斗が社長になったことで内部の敵もうるさくなると思ったが、業績が好調だからそこまで反発もない。今が潮時だ」