敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
『……断る理由は釣り合わないから、ですか? それなら申し訳ないですが僕は諦めませんよ。言ったでしょ? 僕は一個人としてあなたと向き合いたいと。それに、まだ僕だってあなたに興味があるという段階ですし。もしかしたら本当のあなたを知ってお見合いはナシにするかもしれませんよ?』
「あ……、そ、そうですよね。ごめんなさい、私……」
『--でも、断られたので更にやる気が出ましたけど』
サバサバと、何かが吹っ切れたみたいに声のトーンが明るくなる常務。
確かに興味を持たれているだけなんだから、釣り合うとかなんだとかは余計な話だよね。なんか調子に乗っちゃって恥ずかしい。
『神田さん、お見合いの件はナシでいいですが、僕と結婚を前提に友人として付き合っていただけないでしょうか? それとも、それも無理なぐらい僕は眼中にありませんか?』
「い、いえ、眼中にないだなんて……」
結婚を前提とした友人、というのがイマイチ理解に苦しむけど、こういう曖昧な言葉の攻め方がこの人の上手いところだと思う。
友人、と言われてはそれさえ断るのはこちらとしては憚られる。
『よかった。じゃあこれからは友人として接していただけますね? まずは僕のことを常務と呼ぶのはやめましょうか』
「え、えっと……」
『あ、ちなみに僕の名前は大川慎太郎です。大川でも慎太郎でも慎ちゃんでもお好きに呼んでください』
「あの、でも……」
『できれば大川は避けたいところですがどうでしょう』
「どう……って……」
口を挟む間もない怒涛の攻めは昨日とまんま同じパターンだ。
容姿は優しさあふれる好青年なのに、中身は策士という言葉がぴったりだ。