敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
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お見合いの件は慎太郎さんが会長へ話をつけてくださったので、話自体がなくなったと社長から聞いた。
室長とは社長室で話したのを最後にもう数週間、挨拶と仕事の話しかしていない。
そもそも室長が赴任してからしばらくの間ずっとプライベートな会話なんてしたことがなかったのだから、元に戻っただけとも言えるけど。
「七海ちゃん、大川会長のお孫さんと結婚するの?」
「え」
阿川さんとパウダールームでお化粧直しをしていた時、不意に言われた言葉に硬直してしまった。
「風の噂で、というか彼のお姉さんたちと仲良くさせていただいてるの。通ってるエステサロンが一緒でね、それがご縁で」
「そ、そうなんですか」
「だから最近合コンに誘っても断ってたのね。彼氏でもできたのかと思ったけど、彼氏どころじゃなかったわね」
「す、すみません……」
「やだ、謝らなくていいのよ。相手が相手だもの。言えなくて当然よ。ただ意外だったからちょっと驚いたけど」
いやいや、私の方こそ驚きましたよ、と言いたいところだけど、阿川さんの人脈の広さは半端ないことはよく知っているので、落ち着いて考えればさほど不思議でもない。
「そうですよね、私なんかが何でって思いますよね」
「意外だったのはそこじゃないわ。七海ちゃん可愛いもの。常務もいいところに目を付けたなって感心したぐらいよ」
阿川さんは私を可愛がってくれるので、褒め言葉は半分割り引いて受け止めている。否定してもさらに被せてくるので、特に反論しないのがお決まりになっていた。