敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~

秘書室に着くと、既に誰の姿もなかった。

全社的に残業は出来るだけしないことになっていて、模範的な意味合いもあり秘書室は直帰でなければ上がりが早い。

そのため終業時刻を10分も過ぎると社長室と室長の執務室、そして秘書室しかないこのフロアはしん、と静まり返る。

終業間際に室長が出先から戻ってきた時、社長は直帰だと言っていたので恐らくこのフロアにいるのは室長と私だけだろう。

室長と話すなら今しかない、そう思って室長の執務室へと向かう。
執務室は珍しく僅かにドアが開いていて、中に室長がいるだろうことは予測できたけど、近づくにつれ中から話し声が聞こえてきて一人ではないことに気付いた。

明るめなトーンで話す感じから、中にいるのは社長だろうと想像がついたけど、どうもいつもの社長と室長の会話には聞こえず、ついつい耳を傾けてしまった。


「いやお前の言うこともわかるけどさ、俺はやっぱり女の子に素っ気なくするとか無理なわけ」

「別に冷たくしろとは言ってない。ただ彼女は今まで遊んできた女とは違う。まあ、兄さんもそれはーー」

「うっわ、イヤミで兄さんとか呼ぶのやめろって。お前も性格悪いよな」

「悪くて結構。それにイヤミのつもりもない。お前が兄であるのは事実だからな」

「やな奴。俺もう兄さんて呼ばれたら返事しない」

「……子供か」


執務室から聞こえてくる会話。
いつもの室長と社長の声なのに、会話が変だ。

『兄さん』って何。
それに室長が社長をお前呼ばわりしてるような。

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