敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……神田さん、何か忘れ物でもありましたか?」
「い、いえ、室長とお話したいと思って……」
「私と?……そうですか。それからもう一つ。今の話、聞いていましたか?」
「……は、はい……。き、聞くつもりはありませんでしたけど……」
「そうですか……。聞くつもりは、なかった……」
そう言って室長は溜め息まじりに呟くけれど、視線は私から外さないまま。
もう終わりだ。
聞いちゃいけない話を聞いてしまったんだ。
私の秘書人生の終焉。
そう思うほど室長の威圧感が凄まじくて、お腹の奥がキリキリ痛むぐらい緊張してくる。
「ふ……、俺と話、というのはバーで君に目撃された件について、で合ってるか?」
「っ……、そ、そうです……」
ドクドクと心臓が重苦しい音をたてて脈を刻むリズムを速めていく。
社長は何も言わず、まるで室長と私のやり取りを楽しんでいるかのように優雅に微笑んで事の経緯を眺めている。
そして室長はいつもとは明らかに別人に変わってしまっていた。
室長が自分のことを『俺』なんて言うのを聞いたことがない。
それにどこか強気な物言いが普段の室長とは全然違う。
「好奇心は身を滅ぼす、というのはまさにこの事かもしれないな」
そう言って室長は社長の意向を窺うかのような目を向ける。