敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
***

社食は昼の時間からはズレているせいか、そこそこ空いていたけれど、やはり周りの目も耳も気になってしまって、ありきたりな上司と部下の仕事の会話を交わして終わった。

それに室長はやっぱり体調が悪そうなのでそれも気になっていた。

室長が早く帰れるなら手伝うので何でも言ってほしい、と申し出たけど、きっと中途半端に投げ出せないから、とか言って断るのだろうと思ったのに「ありがとう」なんて言葉が素直に返ってきたので驚いた。

本当に体調が悪い証拠だ。


「室長、もう今日は帰られた方がいいと思います」

「なぜ?いない方がいい?」

「や、そ、そんなことは……」


周りに人がいなくなると、途端にフランクな口調に変わり妙にドキドキする。

最近は室長に関する、どんなに些細なことであっても気持ちが揺さぶられてしまう。

なんかもう、私は室長の虜にされてるような、そんな気分。


「少し話す?」

「え?でも具合悪いのに……」

「食べたら少し良くなった」

「えー……、嘘ですよ……。だんだん顔が赤くなってきてますよ」

「ふ……、それは『恋人』と一緒にいるからじゃないの?」

「っ……、また返事に困ることを……」

「ははっ、君を困らせるの好きなんだ、俺」


そう言って室長は目を細めて至極楽しげに笑う。
無表情な室長はどこへいった?と聞きたくなるぐらい二人の時にはいろんな顔を見せてくれる。

そんな『私だけに特別なこと』が私をどれだけ惑わせているかも知らないで。

ホント室長は魔性の男だと思う。
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