俺がきみの一番になる。
「で、でも」
「ごちゃごちゃ考えねーで、身を任せればいいんだって。家どこ?」
本田君はとても頑固で引き下がってくれなかった。だいたいの家の場所を伝える。
「俺んちの近くじゃん」
そう言って歩き出した。
本田君の左胸に耳が当たっているせいか、トクントクンという心臓の鼓動が聞こえる。がっしりした腕と、しっかりした胸板。
本田君の息遣いが耳元で聞こえる。じっとりとしているのは、部活で汗をかいたからかな。
恥ずかしくて、顔を上げることができない。
だってだって、男子とこんなに密着するなんて初めてなんだもん。
元彼の太陽とでさえ、ここまで密着したことなんてない。それどころか、手を繋いだことだって、ましてやキスさえもしたことがない。
緊張するけれど、本田君の腕の中はとても居心地がよくて安心させられる。大きな安らぎがある。温かくて、優しくて、落ち着く。
「怖かった……」
すごく怖かった。ホッとしたら涙腺がゆるんで、涙があふれた。本田君に抱えられた格好で泣きたくなんかないのに。
「泣けよ、思いっきり」
歯をくいしばって涙を我慢していると、本田君の優しい声が降ってきて。涙が一筋頬に流れた。
一度ゆるんだ涙腺はどんどんゆるんで、次から次へと涙があふれ出してくる。
「ううっ、ひっく」
私が泣いている間中、本田君はなにを言うでもなく、ただ黙って受け入れてくれた。
ようやく涙が落ち着いた頃、マンションのエントランスに到着。辺りはすっかり真っ暗で、人通りも減っていた。
ようやく足に力が入るようになり、本田君と向かい合って立つ。背が高くて、周りが暗いからよく見えないけれど、優しい眼差しで私を見下ろしてくれているような気がする。
「ありがとう」
今はもう、愛想笑いを浮かべる余裕もない。さらには、本田君の前で涙を見せてしまったのが恥ずかしいやら、情けないやら。
「全然! 俺のじいちゃんが柔道の師範でさ。ほら、俺昔は背が低かったっつったじゃん? 小学生の頃、それでイジメられることも多かったんだよ。やられっぱなしが悔しくて、死にものぐるいでじいちゃんに柔道を教わったんだ」
ディープな過去をあっけらかんと話してくれるところは、ものすごく本田君らしい。そこで負けずに立ち向かっていった本田君もすごいや。
「柔道は久しぶりだったけど、役に立ってよかったよ。今日のためにやってたんだなって思った。正直、ちょっと心配だったけど、身体が覚えてたみたい」
なんて言いながら、また笑う。
その笑顔がすごくカッコよくて、ドキッとした。