だから何ですか?Ⅲ
振り切ろうと思えば振り切れる。
今の俺からはたやすく逃げられる。
なのにそれをするでもなく、未だこちらに視線も寄越さず声も発しない亜豆の躊躇いは明確だ。
一押し。
あと一押しすれば崩れてこちらに倒れそうな雰囲気であるのに。
なかなか倒れ込まぬ足元に根付くものは何なのだろう?
俺を好きな癖に。
頼むから・・・こっちに流されろよ。
そんな願望も混じって、再びクイッと微々たる力でその腕を引いた直後、
「・・・・失言だったって・・・・謝りに来たんです」
「・・・・・えっ?」
「・・・・・昼間の・・こと。・・・さすがに・・『恋人じゃない癖に』という言葉はあんまりだって思って・・・」
ポツリポツリ響いたのは俺の求めた要求への返答ではない。
視線どころか顔の向きでさえ未だ扉に向いたまま。
でも、そのせいか余計に言葉のままにシュンと落ち込んだようにも見えてくる。
中途半端な時間。
はっきりとしない、もどかしくて、歯がゆくて。
確かにお互いに向ける好意はあるのに上手く結べず解けて落ちて。
不器用な人間が何度も蝶々結びに挑んでいるような。