だから何ですか?Ⅲ
そうしてまた・・・ハラリ。
俺に向けられている好意という糸の滑りやすい事。
絶妙な沈黙の間にうっかり掴んでいた手の力を抜いてしまっていて、そんな瞬間に亜豆の躊躇いや迷いもベクトルを定めて動きを見せた。
俺の手からスルリと抜けて立ち上がる姿に腕を掴み直そうとしても掠めて終わる。
すぐにでも起き上がり、腕とは言わず亜豆そのものを抱き捕らえてしまいたいのに。
それが成せない体の不調に只々舌打ちを響かせ唯一出来た精一杯は、
「凛生・・・・」
恋しいと、か細くもありったけを込めて名前を呼ぶこと。
あまりに弱々しくて乾いていてか細くて。
下手したら他の音に掻き消され言葉として響いたのは自分の耳にだけだったかもしれない。
だって・・・やっと見つけたのに、
やっと、声を聞いたのに。
やっと、この手で触れて、触れられて・・・。
なのに、また、甘い匂いを嗅がすだけ嗅がせて放置するのかよ。
また・・・俺を・・・
『殺すなよ・・・』
そう悲痛一色の叫びは胸の奥だけの反響であった筈。
人間身体が弱ると心も思考も鈍って弱気になるものだとこんな時に再認識もした。
そんな俺の耳に無情に痛く響く扉の閉る音。