だから何ですか?Ⅲ
さすがに、と口に咥えていた煙草を指先に移し、ひょいと顔を覗き込めば不満げな視線と絡み合う。
それに小首を傾げてみせれば不貞腐れたように外された視線にますます疑問に思ってしまった。
それでもすぐに本人の口から、
「嫌でも人の目に晒され留まるような場は嫌いなんです」
「亜豆?」
「それでなくとも海音君は人の目を集めやすいから」
「ああ・・・まぁ、そうだな」
「必然と隣に尽きそう私にも色々な視線が集まるから嫌なんです」
あっ・・・・、
と、思った時には静かに亜豆を引き寄せすっぽりと腕の中に抱きすくめていた。
勿論煙草の火には気を付けて、片手だけでしっかりと抱き寄せて頭に顔を寄せると労わるように髪を撫でる。
「・・・伊万里さん?」
「嫌な仕事ってのはあるもんだよな」
「・・・・・」
「でも、金を貰ってる以上は嫌な顔隠してそれなりに奉仕すべきであって踏ん張るしかねぇんだろうけど」
「・・・・・」
「・・・・・どんどん出してけ」
「・・・えっ?」
「鬱陶しいとか辛気臭ぇとか思わねぇから。亜豆さんの憂鬱さえも俺の特別で糧って事になってっから」
「っ・・・・」
クスリと眉尻下げて笑って鬱憤を吐きだす事を後押ししてやれば、実にもどかし気に表情を歪めた亜豆がポスンと顔を胸に押し付けて小さく『狡い』と言葉を落とした。