お日様のとなり

朝には青々としていた空も少しずつ色を変え、遠く高いところでは薄い雲がかかっていた。

もうすぐ夕暮れだ。

「みあ、覚えてるか?」

静かに大蔵が口を開く。

大蔵も同じように、窓の外の空を見上げていた。

「小学校に入る前だったか。たしかあの時も、これくらいの季節だった。父さんと母さんがケンカして、俺の言うことなんか全然聞きゃしなくて、俺イライラしてそのまま家を飛び出したんだよ」

そういえば、そんなことがあった気がする。

昔の記憶に思いを馳せて、その頃のことを思い浮かべながら大蔵の話を聞いた。

「戻るに戻れなくなって、夕方になってもしばらく河川敷で時間潰してたら、目の前に急にみあが現れて。そうだ、あの時のお前ボロボロで雑巾みたいだったよな」

思い出しながら、大蔵がケラケラと笑う。

「ひどい……。私なりに大蔵が行きそうなとこ考えて、探し回ったんだよ」

大蔵のお父さんとお母さんがおばあちゃんを訪ねて来たのを部屋の奥で聞いていた私は、縁側から裸足で飛び出したんだ。

「そうそう。でもお前一人で林入ったり、木登りしたことなかったから、身体中傷だらけでさ。めちゃくちゃ痛いはずなのに平気そうな顔してて。でも、俺の顔見た瞬間に泣いたみあ見て、俺すげー後悔したんだよな」

「嘘……私、泣いてたっけ……?」

あの頃の記憶の中で、自分が泣いたり笑ったり、怒ったりした覚えはない。

大蔵は私の顔を見ると、下を向いて小さく笑った。

「覚えてないというより、気付いてなかったのかもな。一筋だけの涙だったし」


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