お日様のとなり
大蔵は続けた。
「一筋だけの涙を落として、ボロボロの手で俺の服の裾掴んでさ。いなくならないでって声震わせて。俺はたぶん、あの時からお前のことを好きになったんだと思う」
そっと顔を上げた大蔵と視線がかち合う。
繋いでいた手はいつの間にか離れていた。
胸騒ぎがした。
ただの昔話だよねって、そう言いたいのに。
喉の奥がぎゅうっと締め付けられて、声が出なかった。
「ずっと傍にいるって決めてた。手離してやるつもりなんかなかった。俺はみあの家族でもないし友達とも違う。それでも、これだけ近くにいたらみあが勘違いしちしまうのも当然だって分かってた」
「な、に……言ってるの……?」
振り絞ってやっと出た声は、震えて情けない声だった。
「みあが俺のこと突き放せないって最初から分かってたのに。それでも良いって、俺のこと選んでくれるんなら、理由なんてどうだっていいって、ズルいこと考えてた」
「違う……違うよ……っ!」
ズルいのは私だ。
大蔵の思いに甘えて、本当の気持ちから逃げていた。
向き合ってしまえば、大蔵はもう私の傍にはいてくれないと思ったから。
『どっちもなんて、ズルいことしないでよ!』
橋本さんに言われた言葉は正しかったんだ。
ずっと近くにいてくれた大蔵を失うのが怖かった。
家族でもなければ友達とも違うと、大蔵は言ったけれど、それでも私にとっても大蔵は言葉で言い表せないくらいに大切な存在だったから。