お日様のとなり
頭をぽんと撫でられる。
私はこの手に甘え過ぎていた。
ずっとずっと、この大きな手に守られてきたのだ。
幼い頃の思い出が、一枚一枚の写真のように頭の中に浮かんでは流れていく。
その時、ツー、と一筋の涙が頬を伝った。
「みあ、笑え」
大蔵の手の平が私の顔を両側から包み込んで、ぐっと上を向かされる。
これ以上、溢れた涙が零れ落ちることのないようにと言ってくれているみたいに。
「もう、大丈夫なんだろ。そう思わせてくれたやつのとこへ、みあが心から笑いたいと思うやつのとこへ行け」
誰よりも辛いはずの大蔵は、私の背中を押すように、眉を下げて無理やりに笑った。
「俺の今の表情は、お前に幻滅したからでも、嫌いになったからでもない。それだけお前のことが大切だったってことなんだよ。心配すんな。今までも、これからも、みあは俺にとって大事な存在だ。それはいつまでも変わらない。だから、行け。走れ!」
そっと大蔵の手が離れていく。
伸ばしそうになる手を、すがりそうになる自分の身を、振り切るようにして背を向けた。
不器用な大蔵がありったけの思いを伝えてくれたのだ。
そんな大蔵の等身大の優しさを踏みにじってまで、これ以上自分の気持ちに嘘を吐くわけにはいかないと思った。
廊下に飛び出して、私はまだ疎らに歩く人の間をひたすら全力で走りぬけた。