極上御曹司に求愛されています

「試着しなくてよかったのか?」
「はい。時間も時間だし、混んでいるはずだからいいんです」

混んでいなくても試着する気にはならないだろうけど。
とは口にせず、芹花はほほ笑んだ。
悠生は残念そうな顔をしたが、明日も仕事だから仕方がないかと諦めた。

「それに、私たちは結婚するわけではないので」
 
そう呟いた芹花の胸は、ちくりと痛んだ。
いくらブライダルフェアに二人で来たとしても、悠生の知り合いの代わりで特に意味もない。
芹花は自分に言い聞かせるように心で何度も繰り返し、口元を引き締める。
悠生は芹花の言葉に何も答えず、彼女の手を取った。
中庭での料理の試食が終わった後、衣装の試着を希望する人は別室に移動して衣装を着ることができたのだが、芹花はそれを断った。
興味がないわけではないが、悠生との結婚を控えているわけではない。
その気になれなかったのだ。

「桐原さんの店でいろいろ試着する芹花がかわいかったから今日も期待していたんだけど」
 
悠生は残念そうだが、単なるドレスではなくウェディングドレスの試着だ。
冗談半分で試着した姿を悠生に見せることにためらいも覚える。
気安く試着を勧める悠生に、切なさも感じた。

「それにしても広いな」
「初めてだから、ひとりだと迷ってしまいそう」

悠生は視線をキョロキョロさせている芹花の手を強く握った。
何度か会ううちに手をつなぐのに慣れたのか、芹花は抵抗することもなく、悠生の歩みに合わせてロビーに向かう。

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