極上御曹司に求愛されています
出版社側からは何度も顔と名前を公表し、サイン会を開こうと説得されているが、芹花は頑として断り続けている。
出会いと運だけで就職してイラスト集まで出版してもらえる自分の実力など信じられるものではない。
このイラスト集も、最初で最後のものになるだろうし、人生のひとつの記念に、という思いが強い。
発売後、誰にも知られずにいられるわけはないとわかっているが、なるべく知られずそっと過ごしたいのだ。
「へえ。俺も毎月変わるこの店の黒板メニューの絵は気になってたんだけど、まさか三井法律事務所のあのイラストも?」
芹花の言葉をさらりと聞き流した木島は、表紙と裏表紙を交互に見ながら、感心するように呟いた。
「イラスト集が出るってネットでかなり話題になってるよね。俺も気に入ったイラストがあって……これこれ。腹が減ってる時に見るもんじゃないけど、このうまそうな寿司、何度見ても飽きないんだよな」
「あ……ありがとうございます」
それは、三井に連れて行かれた回らない寿司屋に感動した芹花が家に帰ってすぐにその感動を忘れないようにとひと晩かけて描きあげた寿司のイラスト。
彼女の大好物のトロやうに。エビなどの握りが描かれていて、まるで写真のようなイラストを見れば、たまらず寿司屋に行きたくなる。
三井にお礼のつもりで描いたそのイラストを見せれば、即座に気に入り翌月のHPのイラストに決定してしまった思い出深い作品だ。
弁護士事務所のHPにどうして寿司が載っているんだと話題を呼び、事務所に取材申し込みがいくつかあったと聞く。
「本当、うまそうに描いてるな……」
木島はしみじみとそう言うと、次々とページをめくった。
イラストを見ながら、何度も「これもいいよな」と呟き、イラスト集に見入る。