極上御曹司に求愛されています
「駅前のショップで待ち合わせる? それとも、ここでモーニングを食べてから行く?」
「待ち合わせ……」

二人で機種変更に行くのが決定事項のように話す木島に戸惑い、芹花は千奈美に視線を向けた。
決して安いものではないスマホを弁償してもらうなんてできるわけがない。
木島の責任というわけでもないし申し訳ない。
その時、千奈美が意味ありげに口を開いた。

「弁償してもらえばいいんじゃない? 木島君ならスマホのひとつやふたつ買っても痛くもかゆくもないし。一番高いのを選べばいいのよ」
「は? 一番高いのって、そんなの選べません」

芹花は大きく首を横に振った.

「とにかく、スマホは自分で買います。誰のせいでもないですし、弁償なんて必要ありません」
 
体温を感じられそうなほど近くにいる木島を意識しながら、芹花はそう言った。

「遠慮することないのに。あ、だったらイラスト集発売のお祝いってことで、俺に買わせてよ」
「はあ? お祝い? いえいえ、初対面の人にお祝いしてもらうわけにはいかないですから、遠慮しておきます」

ぶんぶんと首を横に振り必死で断るが、木島は「そう言わず。気楽に考えてほしいんだけど」と聞き流す。

「俺もこの店の黒板メニューのファンなんだ。もちろん三井法律事務所のHPだってよく見てるし。だから」

そして、芹花の手にあったイラスト集を指さした。

「サイン本を一冊俺にプレゼントして。あ、『悠生君へ』って書いてくれよ。あと、俺も千奈美さんのザッハトルテは大好物なんだ。イラスト集発売のお祝いの時には俺にも声をかけて食べさせてくれれば、それでチャラ。だから気にせず明日はスマホを買いに行こう」

こともなげにそう言ってにっこりと笑う木島が理解できない。
どうしてこんなことになったんだろう。
星野と千奈美にイラスト集を見せようと立ち寄っただけなのに、思いもよらないこの展開。
芹花は何度か首を横に振り気持ちを鎮める。
そして目の前に置かれたコーヒーを飲んだ。

「あ、熱いっ」
 
ぼんやりしたまま飲めば、淹れたてのコーヒーの熱さに思わず声を上げた。

「大丈夫か?」

熱さにびっくりした芹花の顔を、木島が覗き込んだ。

「ほら、水を飲んで。火傷はしてないか? だけど見た目どおりぼーっとしてるんだな」

笑いをかみ殺している木島に、芹花は顔をしかめた。
ぼーっとしてるなんて何度も言われてきたが、初対面の人にまで言われるとは、心外だ。



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