極上御曹司に求愛されています
木島家専属のシェフたちが用意した夕食は、芹花がこれまで味わった料理の中で、最高においしいものだった……はずだ。
緑が好んでよく食べるという神戸牛のステーキを始め、フォアグラや車海老も目の前に並び、芹花は次々とそれらを平らげていった。
あまりにもおいしそうにテンポよく食べる芹花の姿を喜んだ緑が、シェフにもう一人前用意させたことも、そしてそれをペロリと完食したことも、覚えているのだが。
「緊張しすぎて味なんて全然わかんなかった。せっかくの神戸牛が……それに一本一万円のパウンドケーキが……」
芹花は自宅に戻った途端、ソファに突っ伏した。
泣くほどのことではないとわかっていても、滅多に食べられない高級料理を堪能できなかった悔しさは相当なものだ。芹花はソファに顔を埋め、えぐえぐと涙を流す。
「ほら、さっさと準備するぞ。明日写真が出てからじゃ動きにくいから、今夜中に必要な荷物を運ぶぞ」
悠生はソファの横に腰をおろし、芹花の背中をポンポンと叩いた。
「そんなに泣く事ないだろう? 実家に行けば、母さんが今日以上の料理を用意してくれる。というより、無理矢理にでも芹花を呼びつけると思うぞ。ここまで食べっぷりのいい嫁が来るとわかって、シェフがもっと腕をふるえるようにキッチンを改装すると張り切っていたからな」
悠生はくくっと笑い、芹花の体を起こした。
「だけど、芹花が食事を楽しめないほど緊張するとは驚いた。なによりもまずおいしい料理を楽しむって言いきってたのに。やっぱり木島家の嫁になると決まって緊張したか?」
「それは当然でしょう。あんな大きな家、というよりお屋敷にいきなり連れて行かれて、星がいくつも輝くお店で腕を振るってたシェフがぞろぞろ出て来て料理の説明なんか始められて……。異世界に飛び込んだような気がして逃げたくなっちゃった」
「絶対に逃がさない」
俯きぼそぼそと話す芹花の言葉を即座に遮る悠生に、芹花はピクリとする。
それでもどうにか言葉を続ける。
「それに、いつ? いつ私は悠生さんと半年後に婚約してすぐに結婚することに決まったの?たしかに悠生さんのこと、好きだし恋人になれて嬉しいし、もちろん結婚には憧れてるけど。何も聞かされてないのは私だけだったんでしょう?」
「そうだな」
「それに、ただでさえ恋人のご両親に初めて会って緊張してるのに、楓さんとのことを聞いて、料理を楽しむことなんてできるわけない。一粒五千円のイチゴだって、全然味わえないくらいショックだった。あのイチゴ……食べたけど、苦しくて味がわかんなくて、どうしたらいいのかわかんなかった」
甲高い声で、まるで追い込まれたような早口で話す芹花を、悠生は「ごめんな」と言って抱きしめた。