極上御曹司に求愛されています

ふんわりと優しく腕の中におさめた芹花に、悠生は何度も「ごめん」と繰り返す。
耳元に届く謝罪の言葉は、興奮気味の芹花を多少落ち着かせたが、悠生から茶室で聞かされたことに、まだまだ納得できずにいる。

「そうやって何度謝ってくれても嬉しくない。結局、悠生さんはこれから半年間、楓さんのものなんでしょ?」
 
悠生の胸に顔を埋めた芹花は、ぐずぐず泣きながら、くぐもった声でそう言った。
肩を震わせてなく芹花を、悠生は悲し気な瞳で見つめた。
芹花の華奢な体を優しく撫でる指先は微かに震えていて、悠生は唇をかみしめ天井を見上げた。

「芹花がどれだけつらくて逃げ出したくなっても、我慢して、耐えてもらうしかない。惚れた女にそんな思いをさせる俺って最低だとわかってるけど、芹花には踏ん張ってもらうしかない。だけど、楓のものになるわけじゃないんだけど。マスコミに向けてみせかけの恋人になるだけだ」
 
悠生はこみ上げる感情を抑えるように、淡々とそう言った。

「見せかけってわかってても、いい気分じゃないし、踏ん張れなかったら、どうしよう」
 
泣き声に交じって聞こえた芹花の弱々しい声に、悠生は顔をしかめた。

「なにがなんでも踏ん張れ。半年くらい、あっという間に終わる」
「ん……そうだといいけど、逃げだしちゃうかもしれない」
「逃がすつもりはないし、もし逃げたらすべて公表して木島を捨てるから安心しろ」
「それは絶対だめ。大ごとになるに決まってる」
 
当然とばかりに木島を捨てると言った悠生に、芹花は慌てた。
次期社長というわけではないにしろ、木島グループの経営に携わる立場にいるのだ。
簡単に捨てることはできないし、口にしてはいけない言葉だ。

「大ごとって言ったって、俺一人が木島からいなくなっても世の中は変わらないし会社もつつがなく成長していくだろうし。俺はただ、芹花さえいれば、それでいいのに」
 
悠生はそう言って、芹花と額を合わせた。

「頼むから、半年我慢してくれ。年が明けてすぐに、楓は仕事でヨーロッパに行く。俺と一緒にいる機会は少ないはずだ。マスコミだって俺たちのことばかり追いかけるほど暇じゃないから、芹花が悲しむ記事も、大して出ないと思う。だから、不安がらずに待ってろ」
 
悠生は芹花の唇にかすめるようなキスを落とした。

「それと、もしも俺たちの計画がマスコミにばれたら、生方さんは政界から引退して、楓と一緒にヨーロッパで暮らすと決めているらしい。たとえ生方家が守ってきた地盤を失うとしても、未練はないそうだ」

「でも、生方陽人さんが、それを許すとは思えない」

 芹花は生方陽人の顔は強面で、頑固で気難しそうな口元をしていたなと思い出す。


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