極上御曹司に求愛されています
「そんなの、どうでもいい。生方隼人の再選のために俺たちは犠牲になるんだ。あとは好きにしてくれって感じだ。さ、早く荷物をまとめよう。こういう時のためにうちが所有しているマンションなら安心だ。明日記事が出て慌ただしくなる前に、急ごう」
悠生は芹花からスーツケースの場所を聞き出し、動きが鈍い彼女に代わって持ってきて広げた。
「貴重品と最低限の服だけでいいんだけどな。あとは買えばいいから。あ、今回こそ外商に来てもらうから、必要なものはすべて父さんに買わせよう。あー、それって逆に喜ばせそうだな。母さんは芹花を着飾って連れ歩くって張り切ってたから……あの人は本気でやるから油断できないんだ」
芹花が持って来た服をスーツケースにしまっていく悠生を見ながら、芹花は自分の運命が大きく変わっていくのを感じていた。
毎日地道に働き、大好きな絵を描く機会を得て幸せを感じていた毎日が、遠い日々のように思える。
まさか自分が木島家という別世界に足を踏み入れることになろうとは、夢にも思わなかった。おまけに、今となってはそこから逃げることなどできそうにない。
「父さんと母さんになんて言えばいいんだろう……」
きっと驚くに違いないが、それ以前に信じてもらえるのかどうかもわからない。
杏実ならまだしも、自分のような秀でた才能のひとつも持たない者が、木島家に嫁ぐことになりそうだとは、決して思わないはずだと、芹花の心はずんと重くなった。
そして、これから始まる切ない日々を、本当に乗り越えらえるのかと、心底不安になった。