極上御曹司に求愛されています

芹花が食べることが大好きだと聞いた緑と千春は、専属のシェフにあらゆる指示を出し、芹花のための豪華な料理を用意していた。
その結果、さすが木島家と唸りそうな料理の数々に、芹花はため息を吐いた。
けれど、悠生から楓との話を聞いたあとでは、生まれて初めて口にする豪華な料理が次々と目の前に並び、流れ作業のように食べ続けても、ただ口に入れるだけで味わう余裕はなかった。
恋人の両親に初めて会うというシチュエーションだけでも緊張感はかなりのものだというのに、半年間、悠生が楓の恋人であるとマスコミに匂わせることを受け入れてほしいと言われた後となれば、芹花の満腹中枢や感情が麻痺しても、仕方がない。
出された料理を次々と平らげ、他のことはなにも考えないようにしてつらい心を逃がし、ようやくの思いで食事を終えた。
悠生と楓のことを受け入れたわけではないが、悠生本人が苦しい顔をしながらも口を閉ざしている状況の中、芹花が本心を口にすることはできなかった。
その後木島家をあとにして、芹花が匿われることとなるこのマンションに連れて来られ、彼女の心はいっぱいいっぱいになった。
それこそ、悠生の瞳に映る芹花の顔が、寂し気なものであっても仕方がないのだ。

「私……」
「ん?」
 
芹花はにっこりと微笑む悠生に、かぶりを振る。
今、悠生はどんな思いで自分を見つめているのだろうか。芹花の胸は痛む。
ただでさえ楓とのこれからの半年を考えて気が重いはずだ。
見せかけだとはいえ、恋人同士の振りをしてマスコミに見せつけるのだから、大きなストレスを感じているに違いない。
それに、巻き込んでしまった芹花への申し訳なさは、スマホを壊してしまった時とは比べものにならないだろう。
悠生にしても、生方家と木島家の密約に巻き込まれただけで、なんの責任もない。
それどころか木島家での自分の立場の弱さを実感した悠生の方が、芹花よりも傷ついているはずなのだ。
そう気づいた芹花は、悠生に笑顔を向けられて、苦しくなった。
芹花を気遣っての笑顔なら欲しくない。
芹花は、悠生が感じているはずのどうにもできないもどかしさを察して自分も切なくなった。

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