極上御曹司に求愛されています
悠生は空いている手で芹花の背中を優しく叩いた。
「そうだな、俺も嫌だ。俺の恋人は、芹花だって、早く言いたい。本当に、ごめんな」
本音を悠生にぶつけても、事態は変わらないことは、ちゃんと理解している。
とはいえ、どうにもならない現実に折り合いをつけられないのも事実。
「いくら恋人の振りをするだけだって言っても、昔付き合ってたくらいだから、楓さんは悠生さんのタイプだし、だったら私なんて敵うわけがない」
芹花の拗ねた声が、広い部屋に鋭く響いた。
互いに気持ちを伝え合い、これから仲良く過ごせると思っていたが、今はそれを諦めざるを得ない。
わかっているのだが、いったん溢れた思いは簡単に収まることなく次々と飛び出す。
「楓さんが嫌な人ならよかった。悠生さんを貸してって言われた時に、絶対嫌だとスラスラ言えるくらい楓さんを嫌いだったら……楓さんの声が震えていても、関係ないって思えたら良かった」
最初は、楓が未だ悠生のことが忘れられず、もう一度付き合いたいのではないかと思ったが、「返して」ではなく「貸して」と繰り返し言われ、違和感を覚えた。
決して未練があるわけではなく、たまたま、何らかの理由で悠生が必要なのではないかと想像した。
それでもやはり、恋人を自分以外の女性、それも以前付き合っていた女性に貸すなんてこと、嫌に決まっている。
「楓さんのことを嫌いだったらすぐに断ったのに」
芹花は目の奥が熱くなるのを堪え、くぐもった声でそう言った。
「でも、楓さんの声、切羽詰まった気迫というか……熱量マックスの凄まじさがあって。怖いくらいだった。……本当に生方さんのことが好きなんだって、今ならわかる」
今となっては、その凄まじさは生方隼人への思いから生まれたものだとわかるが、その時の芹花は、楓の魅力が悠生の心を再び揺らすのではないかと、そればかりを考え、怖かった。