極上御曹司に求愛されています
芹花が大学進学と同時に実家を出てひとり暮らしを始めたのは、星野と千奈美夫妻が所有するマンションの一室だ。
千奈美の甥である芹花の高校の担任が芹花に紹介したのだが、芹花は夫妻の明るく優しい人柄に惹かれ、お世話になることにした。
一階はカフェ『月』で、コーヒー好きの二人が趣味で始めた人気店。
料理の質やコーヒー豆にこだわるため、儲けはそれほど多くない。
今年、ともに五十歳の夫妻はいくつかの不動産や土地を持ち、その収益で暮らしているが、子供がいないこともあり、客たちとは家族のように付き合っている。
芹花も、二人のことが大好きで大学を卒業し就職してからも引っ越すことなく星野夫妻のマンションで暮らしている。
夫妻は忙しい芹花の食生活を気にかけ、彼女を店に呼んで食事をとらせることも多い。そのお礼にと、芹花が軽い気持ちで描き始めた黒板メニューだが、毎月変わるイラストはその写真のような緻密さと華やかさが評判を呼んだ。
SNSで拡散されれば店の名とともに全国に知られ、黒板メニューを目当てにくる客が増え、店はかなり忙しくなった。
「バイトが足りない時には私も手伝っているんです」
「へえ。俺も時々食べに行くけど、気づかなかったな」
「木島さんが来るのって平日の夜ですよね。私がお手伝いするとしても仕事が休みの土日だけだから」
芹花はうまみをたっぷり含んだだし巻きを口にした。
普段味わうことのない、薄味ながらもしっかりとしただしを堪能しながら満足のため息をつく。
「気に入った?」
「はい、どれも絶品です」
向かいに座る木島は、テーブルに並ぶ料理を次々と食べる芹花を面白そうに笑った。