極上御曹司に求愛されています
千奈美から木島が大企業の御曹司だと聞いて、自分とは縁遠い世界に住む男性だと理解していたが、食生活だけでなく、親子関係も自分とは違うらしい。
自分の子供時代を思い出しながら、芹花は黙り込んだ。
大手食品会社の生産工場で働く両親と妹の四人で暮らしていた芹花は、経済的な余裕がない中でも家族揃って楽しい毎日を送っていた。
つつましい生活の中に、十分な愛情と笑顔があった。
芹花が生まれ育った地域には、今も両親が働く食品工場と、住宅メーカーの部材の生産工場があり、地域住民たちの生活を支えている。
芹花の同級生たちの中にもそのどちらかの工場に就職した者は多く、芹花のように家を出て大学に進学する者は少ない。大学に進学するにしても、自宅から通える公立大学を選ぶ者がほとんどだ。
その中で、就職で地元に帰らずに都会での暮らしを続ける者はさらに少ない。
芹花も、できれば実家から通える大学に進学したかったのだが、美大を志望していたため離れるしかなかったのだ。
おまけに就職ではかなり苦労した。
大学で学んだ知識を生かす就職先となると、都会でも難しいのに地元の田舎町では皆無だった。
どうにか今の法律事務所に就職できたが、それはもう、奇跡としか言いようがない。
おまけに、給与や福利厚生などの待遇は好条件で不満もなく、事務仕事がメインだとはいえ、絵を描く機会も与えてもらえている状況は、幸運以外のなにものでもない。