あいつと過ごした時間
俺が目を覚ましたのは翌日の朝方だった。
俺が目を覚ますと看護婦さんがバタバタ走って行き、先生がきた。
赤羽「こうへいくん?分かる?」
「うん」
赤羽「大丈夫そうかな?」
「すみませんでした…」
赤羽先生は、パイプ椅子に座りながら話し始めた。
赤羽「こうへいくん、なんで走ったの?」
「…」
赤羽「じゃあ、質問を変えるね?なんで発作どめの薬持ってなかったの?」
「…」
俺は、俯いた。
赤羽「こうへいくん。よく聞いて?今のこうへいくんの心臓は、今までで比べられないくらい最悪な状態。入院して、治療しようと思ってる。」
「先生…一つ聞いていい?」
赤羽「いいよ。」
「俺はあと、どの位?」
赤羽先生は、大きく息を吐いた。
「教えて。おれ、後悔したくないから」
赤羽「分かった。」
俺は、先生を見た。
赤羽「次、今回みたいな大きな発作が起きたら、命の保証は出来ない。」
「…そっか」
赤羽「だから今はちゃんと治療して欲しい。」
「先生。ごめん。」
赤羽「ん?」
「…治療はちゃんとする。でも…」
俺はまた俯いた。
赤羽「なんだい?」
俺は顔を上げ、先生の目をしっかりみた。
「でも、入院はしない。」
赤羽先生は、びっくりした顔をしていた。
「俺、好きな人が出来たんだ。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、そいつの事俺の命より大切だと思ってる。だから、俺はあいつと出来る限り同じ時間を過ごしたい。もし俺の心臓が限界なら尚更。」
赤羽「こうへいくんの気持ちは分かった。でもね、それは許さない。今退院したらきっと同じ事になる。いや。もっと最悪な事になるとおもう」
「もし、そうなったとしても俺はあいつのそばに居たい。」
赤羽「わかった。この際だからハッキリいっとくね。次発作が起きてももう、手術は出来ない。」
「え?」
赤羽「今のこうへいくんの心臓はもう、手術に耐えられない。」
「そっか」
赤羽「だから、今頑張って治療すればいい方向に向かうかもしれない。だから」
俺は、先生の言葉に被せた。
「先生。気休めはやめてよ。俺の事退院させて」
赤羽先生は、大きな溜息をついた。
赤羽「今の話しちゃんと聞いてた?このままだと取り返しがつかない事になるかもしれないんだよ?」
「分かってる。でも、俺は後悔したくないんだよ。初めてなんだ。こんな気持ちになるのは。今までずっと俺には無縁だと思ってた。でもあいつが現れて、俺は一瞬で心を奪われた。この気持ちを大切にしたいって思った。それってダメな事?」
赤羽「いい事だと思うよ。でも、治療した後でもいいんじゃないかなって思うよ。
」
「それは、先生が病気じゃないからそう言えるんだろ?先生には、まだ未来がある。でも俺には今しかねえんだよ。」
俺は勢いよく布団に潜った。
先生に涙を見せたくなかった。
赤羽「こうへいくん…」
俺はなにも答えなかった。
しばらく沈黙が続いた。
赤羽「分かった。明日退院の許可をだすよ。」
そう言い、赤羽先生は病室を後にした。