触れられないけど、いいですか?
庭園に出ると、心地良い春風が私と翔さんを包み込む様に吹き抜けた。


「わぁ……」

そこには大きな桜の木があり、ちょうど満開の桜の花びらたちが控え目に風に揺れる。



「凄い。とても綺麗ですね」

「はい。さくらさんは、桜はお好きですか?」

「ええ。自分の名前と同じ花ですし」

「それは良かった。僕も好きです、桜」


そう言って、翔さんは庭園内をゆっくりと進んでいく。
私も、その後ろについていくように歩いていく。
……さっきまでは座っていたからわかりにくかったけれど、こうして見ると、翔さんって身長も高くて背格好も素敵だな。
身長、百八十センチはありそう。


「秋になると、今度は紅葉が綺麗らしいですよ」

桜の木を見上げながら、翔さんがそう言う。


「紅葉かぁ。それもきっと凄く素敵なんでしょうね」

「はい。その頃になったら、良かったらまた一緒に来ませんか?」


さらりと放たれた、お誘いの言葉。

勿論、これも社交辞令だってことはちゃんと分かっているため「は、はい。喜んで」と返事する。


だけど、もし本気で言ってくれているのだとしたら……と考えたら、私の気持ちは一気に重くなる。

翔さんのことが嫌な訳ではない。寧ろ、私には勿体無さすぎる程の素敵な男性だと思う。


でも、駄目なんだ。だって私は……。



「僕の両親も、お見合いで知り合い、結婚したらしいんです」
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