触れられないけど、いいですか?
「朝宮食品の社長の娘さん、っていうことだけは聞いたけど、さくらがそういう様子だったからそれ以上は会話が続かなくて。
俺も正直、その時は退屈凌ぎにと思って話し掛けただけだったから、すぐにその場を立ち去ろうとしたんだ。そうしたら呼び止められて……」

「呼び止めた? 私が?」

「本当に覚えてない? まあ、六年以上前の話だしね。あの時のさくら、俺のこと呼び止めて、こう言ったんだ」




『あの、英語、話せますか……?』






「……英語?」

「俺も最初、何のことか分からなくて首を傾げたよ。
それでね、その時に気付いたんだけど、さくらのすぐ近くに、五歳位の金髪の女の子がいたんだ。凄い泣きじゃくってて、どうしたんだろうって思った。

そうしたら、さくらから

『この子、パパからもらった大事なハンカチを失くしちゃったらしいんです。一緒に探したいんですけど、ここへ来るまでの間にどこに寄ったかとか、そういう詳しい話が、私の英語力じゃ聞き取れなくて……』

って言われて、ああなるほどなって」

「その後、どうなったの?」

「女の子に話を聞いてみたら、駐車場の裏の公園でしばらく遊んでたって言うから、それをさくらに伝えたんだよ。そうしたら……」




『あっ、ありがとうございますっ! 私、探してくるから安心して、ってその女の子に英語で伝えておいてください!』




「そう言って、突然会場から走り出て行ってさ。第一印象がおしとやかそうな子だなって感じていたから、少し驚いた」
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