触れられないけど、いいですか?
「そうだ。さくらさん」

翔さんが、私の名前を呼びながらスッと右手を差し出す。


「せっかくだから、早速手を繋いでみませんか?」

「……え?」

「手を繋いで、この庭園を歩けたらいいなと思って」


手を、繋ぐ。


どうしよう。
冷や汗が背中を伝うのが分かる。鼓動も激しい。


だけど、断る訳にはいかない。
翔さんはきっと、私が政略結婚を嫌がらない様にこんな風に気を遣ってくれているのに、その気持ちを無下にする訳にはいかない。
何より、私は翔さんに気に入られなければいけない。
翔さんに愛想を尽かされたら、この縁談は破綻になるのだから。
そんなことになったら、父も母も悲しむ。


私は翔さんに向けて、そっと右手を出す。


手を繋ぐだけだ。そんなの、小学生でもやってることだ。


だけど、翔さんの指先が私の指先に触れた瞬間、先程のフラッシュバックが更に鮮明になって私を襲う。

そして。


「嫌っ‼︎」


大きな声をあげながら、私は彼の手を盛大に払い除けてしまった……。
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