触れられないけど、いいですか?
私がそう言うと、翔君もゆっくりと頷く。


「……俺、大学生の頃にさくらと初めて会ったあの日から、さくらのことだけがずっと好きだった。好きで、好きで。自分のものだけにしたいと強く願っていた。


……だから。

俺がさくらをこんなに想うのと同じくらい、優香も俺のことを想ってくれていたのなら、気持ちに応えることは勿論出来ないけど、恨むことも出来ないんだ」


彼の、真剣で真っ直ぐな気持ちを聞いた私は……


「……ふふ」

またしても、笑ってしまった。


「え、このタイミングで笑う?」

「ごめん、ごめん。だって、あまりに同じだったから」

「同じ?」

「私も、霜月さんに対して同じことを思った」


翔君が、優香さんのことを冷たく突っぱねるより、こうして彼女の気持ちを真摯に受け止めてくれることの方が、私は嬉しい。

誰かのことを想う気持ちは、何にも代え難いとても素敵なもの。
そのことを私達は、お互いの存在を通して知った。


「私達って、もしかしたら少し似てるのかもね」

私の突然の妙な発言に、翔君は少し首を傾げたけれど、私は笑って誤魔化した。


そしてーー。


「わあ。頂上だね」
< 178 / 206 >

この作品をシェア

pagetop