触れられないけど、いいですか?
そうして出会った翔の婚約者ーー朝宮 さくらは、思ったより地味な女だった。
勿論美人ではあるけれどーー今まで誰にも振り向かなかった翔が惚れるくらいだから、よっぽど派手で煌びやかな女かと思っていたら、メイクも髪も大して飾り気もなかった。
ルックスなら、私だって全然負けてない。
性格も、気が弱そうで日野川グループの御曹司の妻となるのに相応しいとは思えなかった。
そして何より、朝宮食品の娘だなんて。確かに大企業ではあるけれど、日野川グループには釣り合ってない。笹川家の方が見合っている。


その夜私は、優斗に電話を掛けた。


「大した女じゃなかった」


そもそも優斗の方から、先日私に電話を掛けてきた。
優斗の好きな女がうちのホテルで挙式の打ち合わせをしに行くらしいから、相手の男がどんな奴が見てほしい、と。


「俺はさくちゃんの婚約者についての情報を求めてるんだが?」


電話の向こうで優斗が冷静に返してくる。

優斗と言えば、可愛い顔立ちしてて私のメイクの練習台にさせたこともあったっけ。
とは言え、優斗もそこそこのイケメンの部類だと思う。可愛い系のルックスが好きな女からしたら、優斗に食いつかない人はいないんじゃないかと思うくらい。

だけど優斗も翔と同じく、モテる割には今まで誰か一人の女性を真剣に想っていたことは一度もなかったように思える。翔と違って、何股もかけて色んな女と遊んではいたけれど。

そんな優斗が好きになった女。それがまさか、朝宮 さくらだなんて。
どいつもこいつも朝宮 さくらのどこがいい訳?

……私は朝宮 さくらのことがますます気に入らなくなった。


だから、


「一緒に壊そう。翔と朝宮 さくらの結婚を」


提案したのは、私の方からだった。
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