触れられないけど、いいですか?
「……ごめん、翔君。今日、ご馳走作るって言ってたのに……」

私が誤ると、翔君はきょとんとした顔を私に向ける。
そして、ハハッと笑い出した。


「何言ってるの。風邪なんて誰でもひくんだから仕方ないよ。その代わり、今度ご馳走作ってね」

「うん……」

「それにね。俺、嬉しいんだ」

「え?」

彼の言葉に、いつの間にか俯かせていた顔をパッと上げた。

それと同時に、彼の唇が私の唇に優しく触れる。


「さくらの為にこうやって何かしてあげられることが、嬉しいんだ」


どういう、ことなんだろう……。いつも何かしてもらっているのは、私の方なのに。



「あ。ごめん、風邪ひいて苦しい時に、嬉しいなんて言ったらいけなかったね」

「え、あ、それは全然いいんだけど……でも、どういう意味?」

「言葉通りの意味だよ」

いつもの優しい笑顔で、彼は言葉を続ける。

「いつも仕事から帰ってくると、さくらが美味しいご飯を作って笑顔で待っててくれる。
それだけでも嬉しいのに、家のことを全部完璧にやってくれてて、いつも申し訳ないなって思ってた」

ウソ……そんな風に思っててくれてたの?


「……完璧なんかじゃないよ。自分に出来ることをやるのが精一杯。ただでさえ私、男性恐怖症のせいで翔君にも会社にも迷惑掛けることがあるのに……」
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