触れられないけど、いいですか?
そんな中、先に言葉を発したのは霜月さんで。

「そうそう、この間はすみませんでした。あれ以来、さくちゃんのこと呼び捨てにするのはやめたんで、安心してくださーい」

霜月さんはへらっと笑いながらそう言うと、私の隣に立ち、「ね?」と言いながら私の肩に手を回してくる。

な、何? 突然。

そんな霜月さんに対し、翔君が一瞬だけピクリと怖い顔をしたのを私は見逃さなかったけれど、翔君はすぐに笑顔に戻り、霜月さんの手を私の肩からそっと外す。

そして。


「そうですか。お気遣いいただきありがとうございます。……出来れば、ちゃん付けもやめていただきたいですけれど」


と、答える……。
笑顔と言っても、怒った顔よりも怖さを感じてしまいそうな、黒い笑顔だ。


霜月さんは、翔君のそんな様子に気付いているかどうかは分からないけれど、


「ははっ。呼び捨てするなって言ったからちゃん付けにしたのに、それも却下ですか? めんどくさいですね」

と言い返す。
彼は彼で、翔君に対し、嘲笑しているかのような表情を見せている……。

しかし、翔君は翔君で、それに対して怯んだり動揺したりする様子は全くなくて。

「はは、それは失礼しました。あなたが、その軽薄そうな態度を慎んでくだされば、妻と仲良くしてくださることは大歓迎なのですが」

なんて言い放つのだった。


ピリついた空気から、今にも火花が飛び散りそうだと感じたのは、気のせい?


けれど、



「心配なんですよ。大切な妻が、変な男に引っ掛からないかが」


……さらりと伝えられた翔君のその言葉に、思わず胸がキュンとときめいてしまった。

心配、大切、妻。その言葉達の全てが嬉しかった。


しかし。



「大切な妻? 所詮ただの政略結婚のくせに」
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