触れられないけど、いいですか?
「さくらさんは、何かご趣味はありますか?」

「え、と……大層な腕前ではないのですが、幼少期から書道を嗜んでおります」

「そうなんですね! 字が上手な女性って凄く素敵ですよね」

「い、いえ、そんな……」

相手をさり気なく持ち上げる優しさや気遣いも持ち合わせている様子の翔さん。
あまりにストレートに褒めてくるから勿論嬉しさはあるのだけれど……やはり戸惑い、私は歯切れが悪くなる。


「まあ、さくらったら緊張しているのね?」

そんな私の様子を見て誤解したらしい母が、そう言って楽しそうに笑う。


「さくらが緊張するなんて珍しいわね。でも無理もないわ、翔さんがこんなにも素敵な方なんですもの」

緊張しているのではなくて戸惑って動揺しているだけなんだけどな、と思ったけれど、そんなことこの場で言えるはずもなく、私は母の言葉に「ええ、つい……」と同意を示して頷いた。


でも結果的に、母のこの言葉がきっかけで場の雰囲気が一気に和んだ。
家のことや会社のこと、勿論私と翔さん自身のことなどを、お互いの家族を交えて色々とお話しした。


しかしそれもほんの十分間程。
十分すると日野川家のお父様が「あとは若い二人に任せて、我々は退散しましょう」というお決まりの台詞を残し、私たち以外の家族は全員が部屋の外へと出て行ってしまった。

広い和室の中に、私と翔さんだけが取り残される。
< 8 / 206 >

この作品をシェア

pagetop