触れられないけど、いいですか?
「……ふぅん。そういう顔もするんだ」

「え?」

そういう顔というのがどういう顔なのかは分からないけれど、目の前の優香さんに負けまいと強い意志を示していることが伝わったのだと信じたい。


「親の言うことばっか聞いてる、自分の意思なんてない箱入り娘なのかと思ってたから。
……でも、だからってあなたのことを私が認めることはないから」

「……では、認めていただけるように頑張ります」

「たかが朝宮食品の娘っていう時点で絶対認めないわ。絶対に邪魔してやるから。
ちなみに、私があなたにこう言っているってこと、翔に伝えたって構わないわよ」

「え?」

「だって翔は、私のこと信じてるもの。私がそんな酷いこと言う訳ないってね」


唇の端を釣り上げた得意げな表情を浮かべながら、彼女は話を続ける。

「あなたと翔は婚約者っていう関係だけど、翔と一緒に過ごしてきた時間は私の方が長いんだから。私とあなた、翔がどちらの言うことを信じるかなんて、言うまでもなく分かるでしょ?」

「……っ」

「あなたと翔なんて、出会ってからまだたかだか数日じゃない。信頼関係は私達の方が出来上がってるんだから」


確かに……二人が一緒に築き上げてきた月日は、私と翔君が過ごした数週間とは比べ物にならない位に長い。

だけど……嘘を吐いたことがバレないっていうのは信頼関係なの? それ、翔君のこと騙してるってことじゃないの?


信頼関係を、自ら壊してるんじゃないの?


言い返したかったけれど、言葉を選んでいる間に翔君が戻ってきた。


「ごめんね、お待たせ。二人で何話してたの?」

翔君が私達にそう聞くと、優香さんは


「色々っ! さくらさんとは私も仲良くなれそうで嬉しいわ!」


と明るい笑顔で答えるのだった……。
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