触れられないけど、いいですか?
「そ、そんなこと……」

「誤魔化さなくてもいいわよ。そっかぁー、男性が苦手かぁー。じゃあ、翔とはまだ一線越えてないのかしら?」

「なっ……!」

私の顔は、自分でも分かる位に真っ赤に染まる。
でもその反応は、優香さんの言葉を肯定してしまったのと同じで。


「男性に触れることも出来ないあなたが、日野川グループの御曹司の妻なんて務まらないわよ。絶対無理」

「そ、んなこと……」

「ないって言える? 本当に?」


ない、なんて……



言えない。

私の男性恐怖症のせいでこれから先、翔君だけじゃなく日野川グループ全体に迷惑を掛ける可能性なんて容易に想像出来る。

だからこそ、克服しようと頑張ってる。


だけど……本当に克服なんて出来るの?
結局今日だって、自分を甘やかして電車を避けたんじゃないの?


私……本当に翔君と結婚していいの?



反論出来ずに黙り込んでいると、優香さんがクスッと笑った。


「今日はこの位にしておいてあげるわね。立てる? お水買ってきてあげる」

「……立てます。もう帰るので水もいりません」

「あらそう?」


じゃあ、またね。優香さんの明るいそんな声には返事はせず、私は来たばかりのショッピングモールを後にした。
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