俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「――詠菜?」


突如甘い声が耳に響くと同時にそっと腰を抱かれる。

不思議と嫌悪感はなく、むしろその温もりに一瞬安堵さえ覚えた。


ふわりと漂う香りはもうすでに嗅ぎなれたもの。

思わず見上げた視界に映ったのは、今まさに思い描いていた男性だった。


なんで、ここにいるの?


「ああ、よかった。会合が長引いたから、会えるか心配していたんだ」

腰にまわされた大きな手から伝わる熱に心が乱され、口の中がカラカラに乾いていく。


「ふ、副社長……?」 

「外では役職で呼ぶなと言ってるだろ?」

過分な甘さを含んだ目で見つめられて戸惑う。


言われてません! 


心の中で叫ぶが、彼には伝わらない。

「きちんと名前で呼んで」


名前?


「ほら、呼んで」


どういうつもりなの? 

このままじゃ友人たちに誤解されてしまうのに。


頭の中がクエスチョンマークで溢れている。

困惑する私をよそに、秀麗な面差しを優しく綻ばせ、顔を覗き込むように身を屈める。


「きちんと名前で呼ばなければ、信憑性がないぞ?」

ぼそっと耳元で呟かれた声に、ピクリと肩が跳ねる。


そうか、演技ね。

なぜ助けてくれるのかわからないが、今は厚意に甘えさせてもらおう。


「あ、采斗さん……」


名前を口にした途端、演技だとわかっているのに頬が熱くなった。

孝也の名前を呼ぶ時にはなんの感情もわかなかったのに。
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