俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
「い、痛いっ」

「いいか、よく聞け。俺がお前を選んだんだ。俺の両親は祖母同様、強引なところはあるが俺が望んだ女性と結婚するのを反対したりしない」

いつになく真剣な目で見据えられ、大きな心音が響く。


「でも……」

「お前はいつも通り素直に話せばいいし、取り繕う必要もない。お前のご両親は突然の申し入れだったにも関わらず俺を受け入れてくださった。本来なら怒鳴られたり大反対されても仕方がないはずなのに。さすがは詠菜のご両親だと思ったよ」


どういう意味だろう?


よくわからずに首を傾げると、采斗さんはなぜか耳を赤くしていた。

「お前はそのままでいい」

掠れた声で囁かれて、私の体温が急激に上がる。


こんなのはおかしい。

これじゃ、普通の結婚を控えた恋人同士のようだ。


私たちはそんな甘い関係になりえないのに。

この人が私を大切にしてくれるのも親切に接してくれるのも、お互いの利益のためだけなのに。


そもそも、期限の決まっている結婚生活なのだから。


「お待たせして申し訳ない」

重厚な扉が開かれて、髪に白いものが少し交じる穏やかな表情の男性と小柄で華奢な女性が室内に入ってきた。

慌てて立ち上がる。

「あなたが詠菜さんね。お義母様からお話を伺って、ずっとお会いしたいと思っていたの。とても可愛らしい方ね。采斗にはもったいないわ」


いえ、どこをどう見ても私のほうが分不相応です……!


全力で否定したい気持ちを必死で抑える。

傍らの婚約者は私の心情がわかるのか、楽しそうな表情を浮かべている。
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