Last note〜特性を持つ者へ
外に出ると、難波さんは大きく背伸びをした。

「青山くんは、女性の扱いに慣れているな。」

耳を少し赤らめて言うから、ついニヤけてしまうのを堪えた。

「えぇ?…まぁ、そうかもしれませんね。
難波さんは…美人は苦手ですか?
耳まだ赤いですよ?」

俺のイタズラ心がうずうずしてしまいそう言うと、難波さんに軽く小突かれた。

「こら、10も上の俺をからかうな。
それはそうと、ハンカチ回収したんだろ?」

「はい。さてと人口検証しますか…」

そう言って俺は柊木さんの涙付きのハンカチを、直接嗅いだ。目を閉じて、深く息を吸い込んで事件現場で嗅いだ物と比べる。

そんな俺の様子を見て、難波さんはギョッとした。

「おまえ…警察犬かよ。」

そのツッコミが懐かしくて、俺はついに吹き出して笑った。

「あはは!やっぱり難波さんて、廣瀬に似てますね!!あいつと同じ事言う!」

腹を抱えて笑ったが、さすがは大人。
少しムスッとしていたが、ムキになったりしてこない。

「そんなに面白いか?比嘉特捜部長が言うように、青山くんはまだまだ犬っころだな。」

「あんまりそれ気に入らないんですけど、もういいや。あっ!一致しましたよ、涙の匂い。」

「本当か!?」

それは、柊木日芽の容疑が深まった瞬間だった。

「後は証拠か!せめて凶器が何か手がかりを掴めればいいんだが…」

難波さんがソワソワし出した。
だが、俺はさっき彼女を信じると宣言したばかりだし、どうもこの事件は何か複雑に糸が絡まっている気がしてならない。

「難波さん、俺は彼女が犯人だと思ってません。」

「…ぢゃあ今の検証は何の為だったんだ?」

涙の匂いが一致したのは明らかだが、
少し興奮気味の難波さんを諭し始めた。

「俺の特性で分かる事は、
あくまでも事件の手がかりになる
パズルのピースの欠片にすぎません。」

ハッとして難波さんは俺を真剣に見つめる。

「本質を明らかに見れるのは、特性を持つ俺ではなく、難波さんです。その事を、お忘れなく。」

少し生意気だったろうか?
それでも俺は、零れてしまう笑みを抑え込む事は出来なかった。
< 14 / 54 >

この作品をシェア

pagetop